大島研究室
Oshima Laboratory
認知や行動から実験室を科学する
目次
実験室安全
“創造性”と“安全性”の両立を目指して
現代社会においては、模倣と改善による生産性の向上だけでなく、新規で独自性のある”創造性”が求められています。モノづくりやサービス業といった場において、また社会にとっても、新しいモノやコトを生み出す重要性は高まっていると言えます。にもかかわらず、実際に手を動かし作業を行う現場での即興的なインスピレーションを基に自由に実行に移すことはあまり許されないのが現状です。その主な原因の一つに”安全性”への懸念が考えられます。近年高まっている安全性の保障なしで、自由な発想により未知なことへトライすることは、事故による怪我場合によっては死につながる恐れがあります。
したがって、いかにして安全性を損なわずに未知のことを行い、”創造的”なコトを生み出すのか?逆に、いかにして思いつきやその場の即興性、インスピレーションを損なわずに”安全性”を保つのか?これらに対する答え、つまり”創造性”と”安全性”の両立はいかにして成立するのかという解を提示することが非常に重要となります。
そこで私たちの研究チームでは、大学の実験室という場に着目し、そこで”創造性”と”安全性”の両立のための方法論の確立を目指しています。未知なコトを追究し、かつ高温や高圧、毒性の強い化学物質など危険性の高いものを多く扱う大学実験室をモデルケースとした方法論の確立は、大学だけでなく企業や研究所、また社会によっても有意義で、より創造的なものが溢れたより安全な社会の構築につながると考えています。
認知、行動から実験室へのアプローチ
私たちの研究チームでは、実験室を“ヒト”と“行うコト”と“その環境”とが相互に有機的に絡み合った動的なシステムと捉え、その関係性を認知や行動、心理などといった多分野を横断的に生かして解き明かそうと研究しています。
研究生活において、私たちは知的探究心に身を任せ、自由に実験研究を行っています。一方で、「危険」な思いはしたくない。と誰しも思うものです。その本能的なレベルからそれぞれの経験則に基づいた予測・察知の思考回路が形成され、各人の認知や行動に関する特性が発現すると考えられます。従来、事故防止というとルールの新設や厳格化といった管理的な方法論が主であり、自由な発想を大切にする大学においては新しい方法論の確立が急務でした。また、個人の違いを無視したリスク論では、自分自身がどうなるのかを知る事は不可能でした。
そこで私たちの研究チームでは、認知や思考、行動、心理などといった多分野を横断的にアプローチすることで解決しようと考えています。まだ誕生まもない新たな分野の研究であり、今後の発展が注目されている分野でもあります。
具体的な研究内容例
脳(思考):アンケートの回答パターンから作業者の思考を解析
大学の実験研究では、様々な化学物質が使われておりますが、各危険性を知識だけで網羅することは困難です。したがって、知識をベースに使用経験などを組み合わせて推測する感覚によって危険性を推測していると考えられます。
本研究では、この”危険感覚”を可視化する手法の開発を行っています。具体的には、アンケートおよび統計解析を用いて、①”危険感覚”の構成要素を可視化すること、②その”危険感覚”が醸成される過程を可視化することを目指しています。
身体(行動):作業の行い方から作業者の行動を解析
作業の行い方は、人によっても作業の内容や状況によっても異なります。単純に水を指定された線まで入れるだけでも、正確に行うためにスピードやタイミングなどの制御の仕方は人や状況による差異が生まれます。これらの個々の”癖”のようなものを定量的に表すため、実際に作業を行ってもらい、そこから独自の数理モデルを作成し、解析することで人ごとに実験行動に関するパラメータを出しています。これにより実験の行動予測が可能になると考えています。野球に例えて言えば、どのカウントでどういうボールが来たときに、どういうバットの振り方をするかを調べる事で、パワプロのようなシミュレートが行えるといった具合です。
目(視線):どのように見ているか?視線の動きから作業者の意図を解析
視線は、ヒトが危険認識において8割以上の情報を得る器官と言われており、考える頭と動かす手足などとの間を取り持つ重要な機関であると考えられています。この視線の動きをアイカメラという装置を用いて計測することで、長時間注視していたものや見た回数や順番などを定量的に計ることができます。その結果得られたデータとヒアリングによって得られるデータとを合わせることで、実際に見るという行為と頭で危険だと意識していることとの関係性を可視化しました。
動画コンテンツ
もし実験室で火災が発生したらどのなるか?どう対処したらいいか?私たちは実際の火災で練習することはできません。そこで専門家の立ち会いのもと、様々な要因の火災や消火について実験をし、その様子を動画コンテンツとしてまとめました。是非、脳内シミュレーションにお役立てください。
※ 専門家の立会の下に実験を行っています。決して真似をしないでください。
化学実験室における火災と消火方法に関するシミュレーションコンテンツ